石川 鴻斎 いしかわ こうさい
   

漁翁漁翁所獲何
日暮掲竿歸長坡
青帘認爲杏花村
一瓢春酒伴吟哦
問君日々遊渭水
盍入夢徴釣金紫
今也滄浪水尚清
濯纓彈冠≫ャ仕
漁父曰吁是何言
巖隱江湖陶田園
屈節折腰所我聇
不如遁世除塵煩
所見平郊祭犠牛
入太廟是時難得
爲孤豚與其衣
文繍就湯鑊熟若
纏襏裌飽麤餐
嗚呼世間名利客
終身以心爲形役
我亦傚君脱塵覊
僾遊縦志將自適
鴻齋居士畫併題
漁翁 漁翁 何を獲(え)ようとするか
日暮 竿を掲げ 長坡(=長く続く堤)に帰る
青帘(=酒屋の看板の旗)認爲(=と認める) 杏花の村
一瓢の春酒 吟哦(=詩歌を歌う) 伴う
君に問う 日々 渭水(=鴨川)に遊ぶや
(なん)ぞ 夢は徴(=前兆)に入り 金紫(=黄金の印と、紫色の組紐)を釣る
今 滄浪(=青く澄んだ水の色)なり 水 尚(なお)清し
濯纓(=世俗を超脱する) 彈冠(=世の汚れを避けようとする) 筮仕(=はじめて仕官する)を宣す
漁父曰く吁(ああ) 是れ何ぞ言わん
巌に隠れる江湖 田園 陶(=気持ちがとけあって楽しい)
屈節(=節義・主義をまげ) 折腰(=人に頭を下げ) 所(ゆえに)我が聇(恥)
不如(不如意=自分の思うようにならないこと) 遁世(=隠居して俗事から離れる) 除塵(=塵や煙を屋外に排出させる)(わずらわ)
所見(=見た所)の平郊 犠牛(=生贄に用いる牛)を祭る
太廟に入る是れ 時に難を得る
爲に孤豚 衣を与其(=比較する)する
文繍(=美しい着物) 就湯(=湯に入る) 鑊(=釜)(にえる)(ごと)し
襏裌(=簑)を纏(まと)い 麤餐(=粗末な食事)に飽(あき)
嗚呼 世間 名利(=誉れと徳)の客
終身 心を以て 形役(=精神的な安楽を求めないで、肉体的(物質的)な満足を求めること)に為す
我 亦(また)君に傚(なら)い 塵覊(=) 脱す
(=ほのか)に遊び 志を縦(=ゆる)め 将に自適
   
135p×30.3p

天保4年(1833)4月1日生〜大正7年(1918)9月13日歿
 三河国豊橋の商家大野屋石川平五郎の庶子として生まれた。名を景英、後に英と改め、初号を嵩雲といった。また、号は後に多く鴻斎を用い、他に芝山・石英・樵者・君華・雪泥などとも号した。
 幼少の頃から才知英発で文学を好み読書に没頭し、漢学を吉田の西岡翠園・太田晴軒・岡崎の曽我耐軒らに師事して漢学を学ぶ。その後、自家隣の浄円寺に了願(文政年間示寂)以来の経蔵があって蔵書が豊富であったから、その閲覧を乞い、毎日所蔵の漢籍を読破し、ついには仏書にまで及んだという。鴻斎の学殖はこうして養われ、専門の漢学・詩文のほか和歌・俳句・茶道・南画もよくした。
 明治維新後、一時神奈川県傭史となり、明治10年(1877)1月から東京に移った。東京では三河出身の和泉屋市兵衛の経営する書店に勤め編集の仕事に携わった。次いで和泉屋の世話で、芝増上寺の旧学寮が改めて浄土宗学校として開校したときに、漢学の教師となった。同年、清国より来朝した全権公使と副使、その外随員8名が宿所として増上寺に滞在した。この時、鴻斎は筆談をもって会談に加わり、のち贈答した詩文中より数十篇を選んで一冊とし、翌11年8月、東京文昇堂より『芝山一笑』として刊行した。これにより大いにその博識が賞せられ「漢学者鴻斎」の名は中央に高まり、その名は全国的に知られるようになった。また、数多くの著作を手掛けたり、小野湖山・前田黙鳳・依田学海・富岡鉄斎など当代一流の文人等と親交を結ぶなど、鴻斎の一番華やかな最も充実した時期であった。
 鴻斎の画風はまぎれもない南画であるが、具体的に誰に師事したのかは明らかでない。ただ、その遺作中に数多くの山水画は遠江の平井顕斎や福田半香に相通ずるものがある。顕斎は、谷文晁の画風を基調に渡辺崋山の様式を加味した作風を、山水画を中心に展開した崋山の高弟である。また、鴻斎自身も深く崋山を崇拝していたようで、その遺作中に崋山の模成画が数多く見られる。いずれにしろ、交際は自ら学者に徹し、画業はおのずから余技で、詩文を本領とし、その絵も謹直で克明な画風をもっていた。
 明治28年(1895)頃より静岡県見付(現磐田市)に閑居し、尾張・三河・遠江を活動領域として東西の文人墨客らと往来した。この時代に多くの詩文書画・平井顕斎碑・福田半香碑などの碑文を手がけ、子供の名づけ親にもなるなど悠々と晩年を送った。
 主な作品に「春景山水図」(明治29年)、「山水十二景図」(明治34年)、「蘭亭曲水図」(大正4年)、「牡丹図」(大正6年)「竹図」(大正7年)など、主な著作に『夜窓鬼談』(1889、東陽堂)などがある。
 「鴻齋居士畫併題」の下に、白文回文の「石景英印」、朱文の「君華」の落款印が押されている。

推奨サイト
http://www.asa1.net/siseki-meguri/himekaidou/h17-isikawa.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E9%B4%BB%E6%96%8E
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E9%B4%BB%E6%96%8E-15219
http://www.weblio.jp/content/%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E9%B4%BB%E6%96%8E


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