執 筆 法

 執筆法とは、書写する際の筆の持ち方のことです。パソコンのような精密な機械であれば、キーボードをたたけば、常に一定の決った文字が打ち出せます。しかし、毛筆は使い手の心持ちに応じて、実に千変万化の働きをします。単純な道具ほど、使い手の技量を要するわけで、これが毛筆の生命であり、このことこそ書が芸術にまで高められた要因と考えます。
 執筆法が適しているかいないかは、書写の困難 容易・上手 下手に大きな影響を与えるため、古来、いろいろと論議されています。
 筆使いや運筆の運動を自由自在にするには、体をやや前かがみにして、楽な姿勢で机に向かい、顔の正面で字が書けるようにします。
 一般的な筆の持ち方には、「単鉤(たんこう)法」と「双鉤(そうこう)法」の2種類があります。「単鉤」とは、筆管に人さし指1本をかけて、鉛筆を持つときのように持つことで、「双鉤」は、人さし指と中指の2本をかける持ち方です。
 双鉤法は筆の持ち方の標準で、この執筆法の要点は、「虚掌(きょしょう) 実指(じつし)」と言われています。「虚掌」とは、執筆時の手のひらの状態が、卵を一つ包み込んでいるような形になることを言い、「実指」とは、指に力が充実していることです。指にはある程度力を充実させますが、手のひらはゆったりと楽にして、指を自由に動かせるようにゆとりをもたせます。
 筆の持ち方としては双鉤法が一番ベターですが、しかし、指先を自由に動かせるため、知らず知らずのうちに指先のみを使って書く習慣がつきやすい欠点があります。指先のみで書いていると運腕の練習ができなくなり、上達を疎外されます。双鉤法の場合はこの点に注意して、指先を使わず、常に腕を使って書くよう心掛けましょう。

 腕の構え方にも「懸腕(けんわん)法」と「着腕(ちゃくわん)法」「枕腕(ちんわん)法」「提腕(ていわん)法」があります。懸腕法とは、筆管のほぼ中間を持ち、手首もひじ肘も机に着けず、かたひじ肩肘を張らずに楽に腕を動かせるようにして書く方法です。普通大筆は、この懸腕法と前述の双鉤法を組み合わせた「懸腕双鉤法」で書きます。懸腕法では、筆を正しく保持したままで、腕を伸ばした範囲であれば、どこへでも自由に動かせることを眼目としています。したがって、肘と肩の力を抜くことが大切ですが、筆を保持する手の部分は指も含めて動かさないよう心掛けるべきで、これを「死指活腕」と言います。
 一方、小筆は、肘のあたりを机上に浮かせる提腕法、鉛筆などを持つときと同様に手首から小指のところあたりを軽く着ける着腕法、手首の下に左手の手のひらを置いて書く枕腕法があります。枕腕法は、右手首が左手の甲の上にのるため筆が安定し、写経など細字に適しています。提腕法は、枕腕法より右手を固定しないので、ある程度腕を自由に動かすことができます。小中筆、硬筆などに多く用いられる腕法で、「平覆」とも呼ばれます。
 次に筆管を持つ位置でも、筆先の利き方(バネ)が違ってきます。持つ高さを適切にしないと筆鋒の働きを敏感に感じ取ることができません。剛毛の太い筆は書く時の抵抗が強いので、筆管の下の方を持たないと書きにくいと思います。柔毛長鋒の場合は、あまり下を持つと筆先のタッチが解りません。また同じ筆でも持つ位置で違いが生じます。このようなことはある程度経験で理解できるものです。初歩のうちは、兼毫中鋒のさばき筆を使用し、筆の中心より少し下、ちょうど筆をやじろべいのように指の上で水平にしてみたときに、釣り合いが取れるぐらいのところを持ちます。

 最後に姿勢ですが、「懸腕 直筆」と呼ばれる書道のスタンダードな執筆姿勢を紹介します。
1.机に向かって正面に座ります。机と体の間は握りこぶし一つ分が入るくらい離してください。
2.机の高さは、背筋を伸ばした姿勢でちょうどみぞおちぐらいで、両足はしっかりと床に揃えます。
3.肩の力を抜いて、脇の下に握りこぶし一つ挟まるぐらい開いて、肘を机と水平に張り出します。
4.手首は曲げずに、肘と同じ高さを保ちます。
 このとき、手首から肘までの部分が机と水平になっているはずです。
5.背筋を伸ばしたまま、上体を15°程度前傾させ、半紙全体が良く見えるようにします。