松鶴図碑

 松は古くから縁起のいいものとして称えられています。それは松樹の長生と、その葉が霜雪を待ち、やがてその季節を迎えても、なおその色が変わる事がないという常緑、いわば松の常磐とによるもので、そこから節操・長寿・繁茂などの例えにされています。
 また、鶴は吉祥の鳥、長寿の鳥とされ、さらにその姿態が端麗なので仙人に侍する鳥として霊鳥視されています。
 芸術的な面で、松の常磐と鶴の長寿とが配されるようになったのは、いつの頃からか判りません。しかし、配された理由としては両者が縁起の良いめでたい存在であることと、色・彩・姿態との取合わせに、妙を得やすかったためと思われます。
 この図の松の葉は直線によって構成され、簡素化された形で、すっきりとした美しさがあります。また、その直線の堅さに対して、丸い形を連ねて表現された樹皮や鶴の毛羽、あるいは鶴の首や尾の曲線などの柔らかさがよく調和し、さらに写実的に描かれた鶴は、まさに飛鳴生動するかのようで、優れた技量を示しています。
 しかもその配置のバランスは絶妙です。松の下に描かれた鶴、その鶴と小川の流れによって画面が斜めに切られ、それでいて全体とし大きくまとまっています。2本の松のうち、左側の松には、藤の蔓を巻き付けて変化をもたせ、さらに松葉の間に垂れ下がっている蔓性の茎や葉によって、画面の余白は単なる余白でなく、生き生きとした画の一部になっています。加えて、小川などに見られる遠近法により、画面に奥行きを与えています。
 また小川の岸から鶴の足元辺りにかけて、雑草を表す点・丸・三角・松葉などは、湿潤な感じを表現しています。岩や松の幹の輪郭線などは、単なる輪郭線ではなく、ところどころに線を切断する強い点があって、その点が、ややもすると単調になりやすい輪郭線に変化をもたせています。
 全体として、周到な写意と手堅い筆致によって、生気に満ちたしなやかでうるわしい画品をとどめています。