隆闡法師碑

 この碑の書者については、古くから僧懐渾と伝えられていますが、隆闡大法師は懐渾の追号であることから、どうやら誤りのようです。碑文によれば、唐の第4代中宗・嗣聖18年(則周の久視2年(701) )、この年に入寂しています。建碑は天宝2年(743) ですから、懐渾が没してから42年後になります。しかし、碑文第1行目に「懐渾及書」とあり、疑問が生じます。あるいは、後人の増刻なのか、または碑文の叙述にあたった弟子の大温国寺主・思荘の追憶の誤りか、今のところ書者も選者も明確ではありません。
 この碑の行書は、《集字聖教序》の影響を著しく感じます。点画の空間にはスッキリとした明るさを持たせ、静かな運筆で、しかも細い線がよく利いていて、線質は充実した力を感じさせます。運筆の呼吸はゆるやかで暢びやかな筆使いの中に粘りがあり、1字1字の構成は、単純に見えますが、造形の均衡は確かです。また、右払いと左払いとで構成する文字、天・大・英・夫・更などの文字は、十分に左右に傾斜させ、開脚の度を広くして安定感を出しています。
 全体的には清澄で気品の高い行書の瀟洒美を逐っているようです。