顔氏家廟碑

 顔真卿が、父顔惟貞のために作った家廟に、顔家の履歴を述べて建てたのがこの碑です。それでこの碑を《顔惟貞碑》あるいは《贈太子少保顔君廟碑銘》とも呼びます。顔真卿の書いた碑の中で、この碑は字数の最も多いものです。1字1字は肉太の、どっしりした重厚な力強い線で構成されています。結体にもゆとりがあり、古来真卿の傑作として有名です。後世、顔法といって尊ばれたのは、この頃の書を指しています。頑固で正義感の強かった武将顔真卿その人を感じさせます。
 この碑は、碑側にまで刻されています。その部分には、拓本もガラスも張られていません。本来タブーですが、そっと手を振れてみました。なんとも言い様もなく、ただ血が騒いだのを未だに忘れられません。碑側の文字は趣が少し異なり、大字《麻姑仙壇記》に近い書風を感じます。
 平成6年の夏、ここを訪れると、たまたま拓本を新しくする修復作業中でした。実にラッキーなことに、碑面がむき出しになっていました。図版は、その時撮影したものです。
 篆額は李陽冰の篆書で、良く引き締まった淀みのない流暢なもので、大いに彼の面目を発揮しています。
 この廟は最初どこに建てられたのか、はっきりしません。やがて廟は壊れてしまい、唐室滅亡後はこの碑も倒れ、放置されていました。それを宋初になって、西安の文廟に移しました。その時、彫り直して建てたのか、単に倒れた碑を移して建てたのか、が明確となっておらず、説が分かれています。